「い、いたかも……」
おそるおそる頷いたら、浅井くんは目を輝かせ、さらに詳しいことを聞いてくる。
「やっぱりいたよな!?姫川さんも陸上部だったの?」
「え、違うよっ」
「あ、そうなんだ。じゃあ友達の応援とか?」
「う、うん。まぁ……」
なんて、本当は友達じゃないんだけど。
「そっかー。いやぁ、その時100メートルの決勝ですげー速い奴がいてさぁ。そいつも確か俺と同級生で三中だったんだけど、どうしても俺、そいつにだけは勝てなくて。結局俺は二位でめちゃくちゃ悔しかったんだよね」
「えっ」
浅井くんの言葉にさらに心臓がドクンと跳ねる。
もしかして。もしかしてだけど、その速い奴ってまさか……。
「誰だっけー、あいつ。姫川さん知ってるかな?名前とか覚えてたりする?」
そして、彼からの思いがけない質問に、私は一瞬体がフリーズした。
閉じ込めていた昔の記憶が一気によみがえってくる。
中二の夏。市の陸上大会。100メートル走。
あの時決勝で一位を取ったのは、たぶん……涼ちゃんだ。



