「てかさー、なんで辻は彼女作ろうとしないわけ? やっぱ部活が忙しいから?」

「……そんなとこ」



不思議そうに訊ねられ、実際はぎくりとしながらもそっけなく答える。



「けど部活やってたって、誰かと付き合うことができないわけじゃないだろーが。野球部にも彼女いる奴いんだろ?」

「まあな」

「お堅いねー、辻クンは」



笑い混じりに茶化してくるそいつらからさりげなく目を逸らし、こっそりため息をつく。

……俺が蓮見をすきだということは、おそらくここにいる中の誰も、気づいていない。

だから当然ながら、今の俺と蓮見の間にある微妙な空気も、何も感じていないのだ。

俺の気持ちに気づいているのは、自分が知っている限りでは悠介だけ。その悠介にだって自分から告げたわけではないし、俺自身が誰かに知られるつもりもなかった。


そしてそうやって中途半端な状態のまま過ごしていたある日、蓮見が偶然、自分のすきな金子が自分以外の奴に告白しているのを見つけてしまって。

……本当は俺は、あんな場面で、あんなふうにけしかけるつもりなんてなかったんだ。

だけど目の前で、金子に失恋して涙を流す蓮見を見て。

どうしようもなくなってしまった。気づいたら口が勝手に動いていた。

今までよりもっと強く、手に入れたいと思ってしまった。