「あのあたし、前から辻くんのことが気になってて……えと、うん、つまりあの、すきってこと、なんだけど」



人気のない廊下の片隅。頬を紅潮させて目の前に立っているのは、隣のクラスの名前も知らない女子。

落ち着きなく視線を泳がせながらたどたどしく語られるセリフを、ただ黙って聞いていた。



「それで、もしよかったら……あたしと、付き合ってください」



緊張しきった様子で、それでも意を決したようにまっすぐ目を合わせて言いきる。

俺は無意識に、強く両手のこぶしを握りしめた。



「……ごめん。悪いけど俺、すきなヤツいるから」



ただシンプルな言葉で、答える。

そいつはとたんに力が抜けたように眉尻を下げ、視線を床に落とした。



「あ……うん、そっか」



しかし複雑そうな俺の表情に気づいたのか、パッと顔を上げて両手を振る。



「あ、ううんいいの。ただ伝えておきたかった、っていうのが強かったし」

「……悪い」



強がるように笑う彼女にまたひとことつぶやけば、さらに苦笑して「謝らないで」と言われた。

それから俺に軽く一礼し、背を向けて去っていく。