──バンッ!



「ッ!!?」



突然至近距離で大きな音が聞こえて、反射的に目をつぶった。

すぐにまた目を開けた私は、気づく。音の正体は──辻くんがさっきまで私に触れていたはずの左手のこぶしを、私の顔のすぐ横にある壁に強く叩きつけたせいだ。



「な……」

「おまえ、ほんと馬鹿。……抵抗すんなら、もっとちゃんとしてくれよ」



低くつぶやいた辻くんは、すっと私から離れて背を向けた。

動けない私の目の前で自分のかばんと学ランを拾い上げ、無言のまま肩にかける。

そうして私が先ほど掴みそこなったドアノブを回し、出入口を押し開けた。



「……ッ、」



辻くんは顔を伏せ気味にしていて、ちらりとも目が合わない。

雨が降り続ける外から、独特の湿った匂いのする空気が風とともに室内へと流れこんできた。

声を、出すこともできずに。ただ私は立ち尽くして、彼を見つめるだけ。

未だ鼓動がおさまらないでいる私の横を、完全にすり抜ける直前──辻くんが小さく、言葉をこぼした。