私は思わず振り向いて、そして顔を上げてしまった。

自分を見下ろす、いつもとは違う色を含んだ黒い瞳と、視線が絡まる。



「……わかってない。俺がいつもどんな気持ちで、おまえのこと見てるのか」

「つ……」

「今だって、こんな状況で欲情してる」



ひやりとした彼の左手が、私の頬に触れた。

それにまた、ピク、と反応して。

自分の鼓動が、どんどん速くなっていく。


熱っぽい、辻くんの瞳。

飲まれてしまいそうなその黒は、今、私の姿だけを映していた。



「蓮見……」



吐息混じりの低い声が、私の名を呼ぶ。

返事をする余裕もない。頭の中、真っ白。

私はただ、目を逸らすことができずにいるだけ。

そして辻くんが、ドアにまっすぐついていた右手を、ゆっくりと曲げていった。



「……だ、だめ、だめだよ、辻くん……」



彼を見上げたまま体を硬直させた私の口からは、そんな弱々しい言葉しか出てこない。

だんだん、辻くんの顔が近づいてくる。

動けない。……動けない。