「今日風つえーなあ。目に砂入りやすくなるからヤなんだけど」



うつむいて嗚咽を堪えていると、どこかで聞いたことのあるような声が耳に届く。私は何気なく、顔を上げた。

まず目に入ったのは、緑色をした鉄製のフェンス。それに設置された扉が錆びついた音とともに開かれて、グラウンド側から白いユニフォーム姿の男の子ふたりが現れた。



「ああ。でもまあ、仕方な……」



そう応えるのは、後から出てきた一際大きくて目立つ男の子。言葉が途切れ、驚いたような、数メートル先の瞳と視線が交わる。

くちびるが、彼の名前を音もなくつぶやいた。向こうから声をかけられるより先に──私は無意識に体の向きを変えて、走り出していた。