「ッわり」



両肩を掴み、0センチだった彼女との距離を離す。

俺の腕の中にすっぽりおさまってしまった蓮見は、思っていたよりもずっと小さくて。らしくもなく、動揺が表に出た。

ふと見下ろしてみると、蓮見は顔を真っ赤にさせて固まっている。

最初に視線が交わった時点で溜まっていた涙は、もうすでに乾いていた。



「悪い、驚かせて」

「うっ、ううん。や、あの、庇ってくれて、ありがとう」

「ん」



動揺を抑え込むのに必死で、返事がそっけなくなる。視線も、さりげなく地面へと落とした。

彼女の履いている靴だけが、視界にちらりと映り込んでいる。



「……あー。蓮見、これから帰るとこだったんだよな? ……俺も、部活あるから」

「え、あ、うん」

「じゃあ、」



短くそれだけ言い残し、蓮見の脇を通り過ぎた。

数十メートル離れたところで、俺はようやく顔を上げる。



「やべ……」



あんなに近づいたのは、初めてだった。片手の甲を口元にあてながら、無意識につぶやく。

触れたところから伝わった、彼女の感触が。

やわらかな香りが、離れない。