「ふふ、辻くん、いっつも冷静なのに」

「………」

「ほんとうは、ちょっと、動揺してたんだ?」



憮然とした表情で、ひたすら無言を返す。

そんな俺の前でなお、蓮見は可笑しそうに口元を押さえていた。



「ごめ……ふふっ」

「……いい加減、わら──」



うな、という言葉は、声にならなかった。

俺の視界の隅にこちらへ向かって飛んでくる、黄色いテニスの硬球が目に入ったから。



「蓮見ッ!!」

「え──ッ!?」



とっさに彼女の名を呼び、その体に腕を伸ばして。

そのまま、思いきり引き寄せた。

華奢な体は、俺の腕に逆らうことなく胸元にぶつかる。それをぎゅっと庇うように、頭ごと包んだ。

すぐそばで、ガツ、と何か固いものがアスファルトに接触する音を聞いた。



「っぶね……」



彼女を抱きしめる腕は緩めないまま、思わず声が漏れる。

そういえばこの場所には、よくテニスボールが転がっていたことを思い出した。

俺も体育の授業中、手元が狂ってここにボールを飛ばしたことあったな。コート周りのフェンス、高くした方がいいんじゃないか?

はあ、と安堵の息を吐く。そこで改めて、今現在の密着度が高すぎる体勢に気がついた。