「よーし、じゃあ走り込み行くぞ~」



よく晴れたその日の放課後。塚田がキャップを後ろ向きにかぶり直しながら、声を張り上げた。

部員たちは各々返事をして、ぞろぞろとグラウンドの外に出て行く。

俺も例にもれず、その集団から少し離れたうしろで同じようにフェンスの扉をくぐった。



「今日風つえーなあ。目に砂入りやすくなるからヤなんだけど」

「ああ。でもまあ、仕方な……」



途中で、俺の言葉が途切れる。

不審に思った悠介が、「ヒロ?」と肩ごしにこちらを振り向いた。

立ち止まる俺の視線の先には──一目散にどこかへと駆けていく、小さな背中。

考えるより先に、体が動く。



「──悪い悠介、塚田にはてきとー言っといてくれ!」

「は!? おいっ、ヒロ!?」



動揺する悠介には一言だけ残し、その姿を追って俺もまた地面を蹴った。

小さな背中は振り返りもせず、ひたすら前へ前へと走り続ける。



「おいおまえっ、どーいうつもりだよ!」

「……ッ、」



走りながら、自分の先にある背中に声をかけても、返事はない。

だけど確実に、俺たちの間にある距離はどんどんと縮んでいく。