けれど──この状況を、単純にいい傾向だと解釈しようとする自分もいる。

少なくとも今、蓮見は俺のことを理由はどうあれ気にしているのだ。これは願ってもないチャンス。

ここでまた何か仕掛ければ、蓮見がこちらを向くキッカケになるかもしれない。


……なんて。



「(そう簡単に、いったら苦労しねぇよな……)」



我ながら都合の良すぎる考えだ。自分に対する呆れと疲れとが入り混じった、深い息を吐いた。

わからない。昔から自分にはあまり縁のなかった色恋事は、どうにもわからないことだらけだ。

世の中のカップルは、一体どうやってその関係まで持ち込んでんだ? いろいろ考えること多すぎじゃね?



「(……女が男の頭撫でるって、どんな心理状態のうえに成り立つ行動だよ、それ)」



バッターボックスに立つ敵チームの打者に対しては、もっとすんなり分析する頭が働くのに。

やっぱり自分は、野球だけが取り柄な気の利かない大馬鹿者なのかもしれない。

階段を下りながらそう考えて、俺はまた自分に対し、大きなため息をつきたくなってしまった。