「監督、どうしました?」

「いや辻、おまえ体調悪いんだって? なんで言わねーんだよ。今日はもう帰っていいから、ゆっくり休め」

「は、」



監督のその言葉に、一瞬呆けてしまった後。

まさかと思ってすぐさま悠介に視線を走らせると、俺と目が合ったヤツはそっぽを向き、べっと舌を出した。

……あいつ!



「ッあの監督、違います。俺別に体調悪くなんか」

「何言ってんだ。たしかにおまえ、今日動き鈍かったしな。そんな調子でこのまま運動してたら、怪我しかねねぇぞ」

「や、でも……」



なおも続けようとする俺の言葉を、監督の強い口調がバッサリと切り捨てる。



「辻、今のおまえは使えないって言ってんだよ。わかったら防具の片付けだけして、とっとと帰れ」

「……ハイ」



ぐっと強く、両手のこぶしを握りしめた。監督に向かって深く頭を下げ、踵を返す。

ベンチの片隅に置いてあった防具を拾い部室へ足を向けると、他の部員たちからの控えめな視線を感じた。

俺がこんなふうに調子を崩すなんてめったになかったことだから、きっと心配してくれているんだろう。

そして厳しい口調の監督だって、態度には出さなくても同じように心配して気にかけてくれているんだってことは、わかってる。


……けど。



「……だせーな、俺」



キツい練習を終え、部室でユニフォームから制服に着替えるとき。窓からいつも見えるのは、暗い夜空と少しの星、なのに。

今はまだ明るい空が、俺を「馬鹿だな」と嘲笑っているような気がした。