一旦落ちついたと思ったのも束の間。グローブをはめた片手を口元にあてながら、里見くんは再度肩を震わせている。

里見くん、笑い上戸? ああもうそれにしたって、本当私ってばなんてことを口走ってしまったの……!


そろそろ本気で私が落ち込みかけていたところで、今度こそ本当に笑いがおさまったらしい。里見くんが涙の浮かんだ目じりをぬぐった。

なんだか居心地の悪くなってしまった私は、うつむきがちに彼の足元ばかり見ている。



「あー、笑った。蓮見さんておもしろい人なんだね」

「……アリガトウゴザイマス」

「はは、それじゃあ蓮見さん。俺からも、これを俺が言ったって秘密にしといて欲しいんだけどね」

「うん……?」



少しだけ視線を上げて、里見くんの表情をうかがう。

今の彼は、やわらかく笑みを浮かべていた。



「ここだけの話。あいつああ見えて、根は結構いい奴だからさ。だから、嫌いにならないでやって」

「え?」



唐突なそのセリフに、思わず目をまるくする。

戸惑いながら、言葉を探した。



「そんな別に、嫌いになるとか、そんなの……」

「うん。ただ、俺が言っておきたかっただけだから」



それじゃ俺戻るね、と片手を挙げて、里見くんはまたボールの飛び交う向こう側へと駆けて行った。

……里見くんはやっぱり、あの放課後のことを知っているのかな。

呆然と背中を見送りながら、頭の片隅でぼんやり思った。


ずっと平穏を保っていた私の世界が、少しずつ変わっていく。変えているのは、ただのクラスメイトでしかなかったはずの辻くんで。

野球をしているときは、あんなふうに無邪気に笑うんだなあ、とか。里見くんとの絆の深さを、垣間見たこととか。最近は彼に関することばかり私の中で強烈に印象付けられていっている気がして、落ちつかない。

カシャン、と小さく音をたてて、フェンスに指先をかける。

そこにきゅっと、力を込めた。