「あ……」



黒いヘルメットをかぶって、バットを握りしめて。

たった今響いた音の発生源は、ここから50mほど離れた先にいる、ユニフォーム姿の辻くんだった。

何か機械のようなもの、……たぶんあれからボールが出てくるんだと思うんだけど、それを真剣な眼差しで見つめている。

私が少し苦手な、まるで何もかもを見透かしているようなあの瞳とは、また違うもの。



「辻てめーっ、調子良さそうだなー!」

「ははっ、悪いな飛ばしまくってて」

「うーわムカつく!」



バットを握り直しながら、辻くんは話しかけてきた隣の人に言葉を返して無邪気に笑っている。

あの表情も、私は知らない。



「(……辻くん、野球やってるときは、あんなカオするんだ)」



何か、秘密を知ってしまったような。どこへ続くかもわからない扉を、開けてしまったような。

そんななんとも言えない──恋ともまた違う感情で、ドキリと心臓がはねた。

なぜか、目が離せない。