「えー東、俺まだ打ち足りないんだけど~」

「んなこと知りませんよ文句なら監督に言ってください」



ネットの向こうからこちら側へやって来た東はメットをかぶると、俺と立ち位置を交代した。

相変わらず、悠介に対してだけやたら不遜な態度だ。おもしろいくらい棒読みのセリフに、悠介の口元が引きつる。



「……おまえってヒロとかとは普通に話すのに、俺に対してだけ態度かなり違くねぇ?」

「だってもしユウ先輩が怪我でもして試合出られなくなったら、次バッテリー組むのは俺とヒロ先輩じゃないすか。だからヒロ先輩とは仲良くしてないと」



淡々と答える東に向けて、悠介がわざとにっこり笑顔を見せる。



「ほー。じゃ同じ投手である俺とは、仲良くする必要がないってわけか?」

「まあ特には。」

「ほんっとてめーは生意気だなああぁぁ!!」

「こらー!!」



始まった、と呆れる俺がため息をつくより先に、ベンチの方から届いた威勢のいい女子の声。

今にも東へ飛びかかるべく両手を広げていた悠介の顔が、一瞬にして『げっ』と歪む。