──キンッ!


金属バットに硬球がぶつかった高い音が、鼓膜を震わせる。

これが部活中の打撃練習ではなく試合であれば、確実にヒット級の当たりだ。



「ヒロさぁ、今微妙に機嫌悪いだろ」



わざわざ顔を向けて見なくてもわかる。笑い混じりに声をかけてきたのは、隣のピッチングマシンを使っている悠介。

俺はヘルメットを軽くつまみながら、不信感を隠そうともせず視線を投げた。



「は? どこがだよ」

「気づいてねーの? 眉間、バッティング始めたあたりからずっとシワ寄りっぱなしだぜ~?」



さらには「それにヒロ、機嫌悪いときやたら引っぱってボール飛ばすじゃん。いつもは正確さに重点置いてんのにさ~」とかなんとか続けて言われ、思わず眉をひそめる。



「……ちょっとヤなこと思い出してただけだよ。なんでもないから気にすんな」

「そ? ならいいけど~。あんまり怖い顔してっと、後輩たちがビビるぜ副部長」

「うる、せっ」



キンッ! スイングした瞬間また高い音が響いて、ボールはサードの位置へ。

その軌道を見送ってから、一度腕をおろす。悠介に言われたからってわけじゃないけど、たしかに今の俺のバッティングは力任せになっていたかもしれない。

心を落ちつかせるようにふっと息を吐き、またバットを構えた。改めてボールを芯に当てることと、自分の狙い通りの場所へ飛ばすことに意識を集中する。

もう、高校生活最後の夏は始まっているんだ。大事な練習時間を、無駄に過ごすわけにはいかない。