「……なー、辻」

「あ?」



神妙な表情でなぜか距離を詰めてきた金子が、内緒話をするように抑えた声音で切り出してきた。

その近さに若干身を引きつつ、一応顔を向ける。



「それってさ、見てたの辻だけ? 他には誰もいなかった?」



一瞬。本当に一瞬だけ、素直に答えた場合のことを考えた。

けれどやはり自分にとって都合のいい展開には転がらないと判断し、その仮定は頭の片隅へと追いやる。



「……いないよ」

「マジ? は~、よかった……」



何食わぬ顔で返した嘘に深く息を吐き、胸を撫で下ろす。

うん、ごめん金子、実はもうひとりいる。しかもそいつ、おまえのことすきなんだってさ。

──そんなこと、絶対口になんてしないけど。


気を取り直したらしい金子は、さっきの続きだけど、とまた口を開いた。



「じゃあさ、そう言う辻はどーなの? なんか俺的には、辻のが物欲とか全然なさそうに見える」

「そうか?」

「ん。なんか、野球以外のことに興味なさげだし」

「あ~……まあ、否定はしないけど」



だって俺、昔から他の奴らが当時ハマってたマンガとかゲームとか興味なかったしな。まあ、野球のゲームならするけど。