不意に両肩を掴まれて、思わず体がこわばった。

見上げるとそこには、何も言えなくなってしまう、まっすぐな黒い瞳。



「あのとき、やめたこと……今、していい?」

「ッ、」



息を飲んだ頭の中によみがえるのは、雨の日の、野球部部室での記憶だ。

真剣な眼差しに射抜かれて、逸らせない。私を捕らえる辻くんの手に少しだけ力がこもったから、ぴく、と肩が震えた。

……こわくないって言ったら、嘘になる。

だけど、彼が望むなら。この人の願いは、叶えたいって思うから。

私は、ゆっくり目を閉じる。



「………」



そっとやさしく、両頬を挟まれた。

すぐそばに、当然だけど彼の気配を感じる。

緊張のあまり、きつく目を閉じていた私は──次の瞬間、来ると思っていた場所とは違うところに触れたぬくもりに、パッと目を開けた。


……お、おでこ?



「なに、その顔」

「え、だって……や、なんでもない……」

「……注射を我慢してる子どもみたいなヤツに、してもな」



ボソリと呟かれた後半の言葉は、ちゃんと聞きとれなくて。

首をかしげる私の頭を、辻くんはまた「気にすんな」と言って軽く叩いた。