「……まお?」



ハ、と肩がはねて、我に返る。

ふと気づくと、目の前には私の顔を覗き込む沙頼と佳柄の姿。

周りのクラスメイトたちも、それぞれ掃除の準備をしたりすでに教室を去っている人も多い。



「あ……ごめん、ホームルーム終わってたんだね。帰ろっか」



開きっぱなしだったかばんのチャックを慌てて閉め、席を立ち上がる。

そんな私を見て、ふたりは同時に顔を見合わせた。



「……ねーはすみん、さっきのさ」

「あっ、そういえば沙頼、今日図書室寄りたいんだよね? 私も何か借りよっかなあ」



わざと佳柄の言葉を遮って、明るい声を出す。

心の中では申し訳なく思いながらも、そんなことをしてしまったのは──直感的に、佳柄の言う『さっきの』が、生物の授業に遅れたことを指していると気づいてしまったから。

早足で教室を出た私の後ろを、ふたりが追いかけて来た。



「はすみん」

「えーっとなんだっけ、あの本入荷してるかなあ。ほら、最近映画化されて話題の……」

「……まお!」



ひとりよがりに話しながら廊下を歩いていたら、ぎゅ、と左手首を掴まれて。

驚いて振り向くと、真剣な顔をした沙頼と目が合う。



「図書室は、今日はナシ。──まお、今すっごくあんみつ食べたいでしょ? 食べたいよね?」

「……へ?」



予想外すぎるその発言に、思わず間抜けな声が漏れてしまった。

あ、あんみつ???



「え、や、私は別に、」

「よし来たはすみん! じゃあこれからいつものカフェ行っちゃいましょー!」



さっきと、立場がまるで逆だ。こちらの発言を最後まで聞かず、佳柄が輝く笑顔で後ろから私の両肩をガッチリ掴む。

抵抗する余地もなく、私は何がなんだかわからないまま、ふたりに連行されて行くのだった。