……ああ、もう。



「わ、私は、でも……──」

「蓮見」



彼女の言葉を遮って、名前を呼ぶ。

伸ばした左手を、ポンとやさしく頭に乗せた。

瞬間、弾かれたように顔を上げた蓮見と視線が交わる。



「……いいよ」

「え?」

「いいよ。……何も、言わなくて」



目には、心なしか涙の膜が張って。困惑した表情で俺を見つめたままの蓮見から、またそっと左手を離した。

上手くできたかはわからないけど、安心させてやるつもりで、俺は軽く笑ってみせる。



「あの、辻く……」

「さっきのは冗談だから。ごめん、ふざけすぎたな。──心配かけて悪かった。たしか今の時間、生物の授業だろ」



見返りのない想いは、苦しくて。

いっそ、離れられたら楽なのに。


わざと視線を逸らしたときや、何か言いたげな瞳に気づかないフリをしたとき。

冷たい言葉を掛けた瞬間の彼女の表情に、堪えられなくなる自分がいて。……改めて思い知った。



「もう、大丈夫だから……教室、戻れよ」



俺はこれ以上、どうしたって、蓮見を突き放せない。