俺は視線を落とし、掛け布団に置いた両手をぐっと強く握りしめた。



「蓮見、やめろよ。……そんな顔されっと、期待する」

「え。あ……」



俺のセリフに、びく、と彼女の肩が震えたのがわかった。

自嘲的な笑みが、自然と顔に浮かぶ。



「こわいな、蓮見は。“ただのクラスメイト”のところにだって、こうやって授業を投げ出して、駆けつけられる」

「……ッ、」



彼女の口が何か言いたげに薄く開いて、だけど何も発さずにまた閉じる。

それを視界の隅に認めながらも、俺の頭は何も感じるな、と感情にストップをかけていた。

自らの頭のどこかが命じるまま、冷めた口調で言葉を続ける。



「自分が誰かに好かれてるっていう確信はさ、良くも悪くもその人の立ち居振る舞いに影響するもんだけど……蓮見の場合、ずいぶんと“やさしく”なるんだな」



たぶん蓮見は、その嫌味に気づいていた。

彼女が何か言うより先に、さらに畳みかける。



「かわいそうな辻くんに、他でもない自分がひとこと声かけてあげようって? ハッ、立派なボランティア精神だ。わかってても俺は、馬鹿みたいに舞い上がるわけだけど」



嘲るように鼻で笑った俺は、相変わらず視線を手元の掛け布団に固定している。

蓮見が、こくりと息を飲んだ。



「……あ、あの、私……」



……だめだ、視界に入れるな。何も考えるな。

試合のときみたいに。いつもみたいに、ポーカーフェイスで。



「ち、違うの、えと、あ、の……っ」



泣きそうな、声。

それでも必死で、何かを言おうとしていて。