「わ、私、あのとき……びっくり、したよ。それにびっくりだけじゃなくて、ちょっとだけ、こわかった。でも──」



そこまで言って、とうとう蓮見はベッドの横……俺の隣で、立ち止まった。

ふわりと、一瞬やわらかな香りが届いたような錯覚をするほど、近い距離。



「辻くんに、避けられるのだって……や、だよ」

「………」

「他の人を庇って、階段から落ちたって聞いて……心配、したんだよ」



眉を下げて、両手を胸の前でぎゅっと握りしめて。

消え入りそうな声で、だけど確かにそう言う。



「(……な、んで、)」



一気に、それを何と呼べばいいのかわからない感情がこみ上げてきて、胸が詰まった。

──こんな表情とか、言葉とか、些細なことで。

せっかく距離を置こうとした俺の決意を、蓮見は簡単に壊す。

彼女に惹かれ始めてから、いつだって、俺は蓮見の一挙一動に左右されている。


……だって本当は、自分が苦しかっただけだった。

手に入れようと近づいて、だけど結局、彼女が自分を見ていないことを突きつけられて。

それならばまた、少し離れた場所にいようと思った。

いっそ逃げてしまおうと、思ったのに。