「中島‼︎大事な話ってなんだよ?」


磯野がそう言ってやってきた。


なんの変哲もない、磯野。


いがぐり頭の、どこにでも居そうなダサい同級生。


小さい頃からの友人であり、バッテリーであり。


大事な存在。


でも__。


「僕、早川さんと付き合うことになったから」


はにかむ早川さんと頷き合った。


「ええっ⁉︎マジで?」


この世の七不思議レベルで驚いている。それはちょっと失礼じゃないか?


お前に彼女ができたんだ。僕だってできるだろう?


ここ1週間、抱えてきたもやもやは綺麗さっぱりなくなり、代わりに今や粒子となって光り輝いていた。


あれは何だったんだろう?


ただの気のせいか?


「中島くん、一緒に帰ろう?」


「あ、うん」


早川さんが差し出した手を、僕は握った。


「中島、部活どうすんだよ?」


「磯野、ちょっとは察したらどうだ?今日は休むよ」


唖然とする磯野を尻目に、僕たちは手を繋いで歩き出した。


ああそれから、と振り返る。


「磯野、お前のグローブちょっと臭いよ。ちゃんと手入れしたほうがいいぞ」


「く、臭い?」


「臭い。それから僕、ちょっと髪を伸ばすかもしれない」


じゃ、と早川さんの少し汗ばんだ手を握りしめる。


きっと早川さんの手は、良い匂いがするんだろうな。


そんなことを思いながら__。


(玉)