バイトがあるから、という忍と家の前で別れ、あたしは部屋に戻った。

ひさしぶりに忍とゆっくり話ができたのに、胸のあたりにもやもやしたものが残って、その夜はなかなか眠れなかった。


ベッドから抜け出して、机の上の、キャンディの空き缶に入れてあるビーズをひとつつまんで、窓を開ける。

隣の家の窓に向かってビーズを投げつける。
こつん、と硬質な音がしてビーズは闇に吸い込まれていった。

ボイルカーテンの向こうで影が動いた。

「ねえ、ちょっと、樹。起きてるんでしょ。窓開けて」

あたしはその影に向かって、必死で手を振った。

けれど、樹は動こうとしない。


あたしはもう一度、ビーズを投げつけた。

無視された。

またひとつ投げた。

無視された。


なんなの、あいつ。

あたしはやけになって、節分の豆まきの要領で盛大にビーズをまきちらした。
おばさん、ごめん。明日、お庭の掃除しときます……。


「あーもう、なんなんだよ、おまえ。うぜえ。死ぬほどうぜえぞ」


やがて、しびれを切らしたように樹が窓を開けた。


勝った、と思った。