雪だるまにマフラーはいらない

「俺もはっきり覚えてるわけじゃないけど」






「うそだよ。覚えてる。黎くんがマフラー貸してくれたことも」







「えっ、嘘。俺マフラーなんて貸したっけ」
 







 記憶にないな。あの後にマフラーをなくした記憶ならあるけど。







「覚えてないの?」






「ごめん」
 







 俺は自分のマフラーを雪だるまではなく志織ちゃんに巻いた。





彼女は少し驚いた顔をしていた。







「もしかして、マフラー貸してって言ってるように聞こえた?」








「違うよ。今の俺が志織ちゃんにマフラー貸してあげたいと思っただけ」







「それって、期待していいってこと」







「それは、どうかな」







「はっきりしてよ」
 






 そう言われても困る。自分でも分かってないのだから。





けど、一つだけわかったことがある。







今までは志織ちゃんが雪だるまにマフラーを貸して寒いおもいをするなら、雪だるまにマフラーはいらないと思っていた。






でも、今は志織ちゃんが寒いのなら俺がマフラーを貸すよ。
 






雪だるまにマフラーはいらない、と言った過去の自分にそう言いたい。