翌日。

「おはようございます」

早番シフトは開店の一時間前に来てほしい。と面接の時に雅人さんに言われ、ドキドキ高鳴る胸を押さえながら、まだ人気のない店に入る。

スフラの営業時間は朝の九時から夜の九時までで、常に店には石堂さんか雅人さんがいる。

今しがた出勤してきたばかりだったのか、ライトブルーのジーンズに黒のダウンジャケットという私服姿の石堂さんがレジの金銭チェックをしていた。

「……はよ」

石堂さんは店に入ってきた私をちらっとみるなり愛想なく応えた。

“出勤してきたらまず何をすればいいですか?”と尋ねようとしたけれど、ぐっと思い留まる。

お金数えてる時に話しかけちゃだめだよね――。

コートを脱いで腕にかけると、石堂さんのタイミングを待った。BGMはまだかけられてなく、照明も必要以上に点いていない。指で紙幣をはじく音だけがやけに大きく聞こえた。

「そこに制服、置いてあるだろ」

「……え?」

「突っ立ってないで着替えてきたら?」

カウンターの上を指差すその方向を見ると、真新しいバリスタエプロンが几帳面にたたまれて置いてあった。

「うち狭いから、着替えるとこは休憩室と一緒ね」

「あ、はい、わかりました」

「カウンターの奥つきあたり」

石堂さんは、早く行け、と顎でしゃくると再びレジへ目を落とした。