「申し訳ありませんが、その続きはあとにしてくれませんか? 石堂副社長」
互いの唇が重なるまであと数センチというところで、第三者の声が横からして、私は慌ててその方を振り向いた。
「まったく、水谷、お前空気読めよ……」
はぁ、とため息をついて石堂さんは額に手をあてがう。想いが通じ合い、ふたりだけの世界になろうとしていた様子を目にしても、表情ひとつ変えずに水谷さんは、メガネのブリッジを人差し指で押し上げて冷静に言った。
「本日、午後イチで会議があるのをお忘れですか? 早く本社へお戻りください」
「え……本社って……? 石堂さん、店に戻るんじゃ……」
すると、石堂さんは眉尻を下げて申し訳なさそうに口を開いた。
「店にはもう戻らない。店長としての役割は、今日の午前中で終わったからな」
「終わったって……どういうことですか?」
「本社の作成したマニュアルも会議で一応まとまったし、売上も安定してきたからな……本店での俺の役目は終わって、本来の職場へ引き上げるんだ。今朝、電話かけ直した時に言おうとしたら、お前、勝手に切っただろ」
ムスっとして石堂さんは腕を組む。
――あのさ、お前に言わなきゃならないことがあるんだ。
互いの唇が重なるまであと数センチというところで、第三者の声が横からして、私は慌ててその方を振り向いた。
「まったく、水谷、お前空気読めよ……」
はぁ、とため息をついて石堂さんは額に手をあてがう。想いが通じ合い、ふたりだけの世界になろうとしていた様子を目にしても、表情ひとつ変えずに水谷さんは、メガネのブリッジを人差し指で押し上げて冷静に言った。
「本日、午後イチで会議があるのをお忘れですか? 早く本社へお戻りください」
「え……本社って……? 石堂さん、店に戻るんじゃ……」
すると、石堂さんは眉尻を下げて申し訳なさそうに口を開いた。
「店にはもう戻らない。店長としての役割は、今日の午前中で終わったからな」
「終わったって……どういうことですか?」
「本社の作成したマニュアルも会議で一応まとまったし、売上も安定してきたからな……本店での俺の役目は終わって、本来の職場へ引き上げるんだ。今朝、電話かけ直した時に言おうとしたら、お前、勝手に切っただろ」
ムスっとして石堂さんは腕を組む。
――あのさ、お前に言わなきゃならないことがあるんだ。



