画面に映る石堂さんの携帯番号をじっと見つめ、どのくらい時間が経っただろう。電話をしたところでなんて言えばいいのかわからない。そうこうしているうちにも時間はどんどん過ぎていく。私はごくりと生唾を飲み込んで、意を決して石堂さんの番号を押した。

『もしもし?』

「あ、あの……花岡です」

思いのほか、電話に出るのが早くて、その低い声にドキリと胸が鳴る。

「すみません、お仕事中ですよね」

『あぁ、でも今なら大丈夫だ』

電話の向こうから、店内でかかっているクラシックの曲が微かに聞こえる。あまり人の話し声も聞こえてこないし、まだお客さんもさほど入っていない様子だ。

「……今日、ちょっと体調が悪くて、お店に出られそうもないんです」

『え? 風邪か? う~ん、お前、午後からだったな? まぁ、今夜はバイトの人数は足りてるから、気にするな』

その言葉に、私は罪悪感に押しつぶされそうになる。

「すみませ……ん、本当に……」

ダメだとわかっているのに、無意識に涙声になってしまう。言いたくない嘘をついて、けれど、どうすることもできなくて、瞳がじわりと濡れてくる。

『おい、お前……どうかしたのか? なんか変だぞ?』

すると、その時だった。部屋のインターホンが鳴って、何度かドアをノックする音がした。

え!? もしかして、もう迎えが来たの――?