「はい、私……石堂さんのこと、信じてます。だって、私……石堂さんに婚約者がいたって、好きな気持ちは変わりませんから。好きな人を信じないわけないじゃないですか」

そう言って、にこりと笑顔を作る。もう、これ以上石堂さんに心配はかけられない。

「まったく……そういうこと言うなよ、お前は……理性を壊す天才だ」

「え……? ンッ」

ふっと目の前が陰ったかと思うと、石堂さんに両頬を押さえ込まれて口づけられた。それは、優しくもなければ柔らかくもない。ただ、本能をむき出しにした激しいキスだった。

「あっ……い、石堂さ――」

「なんだ……やめろ、なんて言うなよ?」

言葉が吐息となって唇、頬に熱く触れる。飲み込まれるような口づけに、私の理性も霞んでいく。

「どうして、キスなんか……また私、そんな物欲しそうな顔してましたか?」

前に、一度、私から石堂さんに口づけたくて、その唇に触れそうになったことがあった。けれど、その時は逆に石堂さんにキスされてしまった。

――お前が物欲しそうな顔してたからだろ。

あの時の言葉が脳裏に蘇る。石堂さんとキスするのはこれで二度目だ。

「欲しがってるのは……俺のほうだな」

不敵に笑う石堂さんに、ゾクリとしたものが走る。

私の気持ちが一方通行で、この口づけが石堂さんの衝動的なものだったとしても、今だけは、私のことを欲しがってくれている。

それでもいい――。

私は脇目も振らず、この恋に完全に溺れていた。