「流石だね、花岡さん。慧仕込みのバリスタ技術、ちゃんと身についているみたいでよかったよ」

「い、いえ、そんなことないです」

衝撃的な事実を知ってから一週間。

私はなるべく思い出さないように仕事に没頭した。石堂さんはというと、最近は外出が多く、今日も午後から店を出ている。雅人さんからコーヒーを絶賛され、こそばゆく思って笑顔になるけれど、石堂さんがスフラグループの副社長で、私に黙っていることが他にも色々あるのかと思うとやりきれなくなる。

「慧なんていなくても、花岡さんがいればやっていけるね。お疲れ様」

雅人さんがぽんっと軽く私の肩を叩く。

いつもどおりの自分を装っていても、やはり石堂さんを目の前にするとぎこちなくなってしまう。時折、そんな私を怪訝そうに見るけれど、相変わらず興味なさそうで、特になにも言ってこない。私が告白したことなど、まるで気にも留めていない様子だ。

今日も滞りなく仕事が終り、ブラインドとclosedの札を下げる。店が閉店しても、結局石堂さんが店に戻ってくることはなかった。