「待って、あのお客さんのお会計、私にやらせて」
マキアートに手をつけなかったのは三十代くらいのOL風の女性だった。コートを羽織って席を立ち、憮然とした表情で伝票を手にしながらレジへ歩いていこうとしていた。
「大丈夫?」
「うん、平気。行ってくる」
怜奈が心配そうに私を見る。その女性は私もたまに見かける。石堂さんのコーヒーをいつも注文して長居はしない人だ。
「お会計お願いします」
肩にかかった長い髪を軽く振り払い、その女性が財布をバッグから出す。私は、ゴクッと息を呑んで言った。
「あの、すみません、ご注文いただいたマキアートになにか不具合がありましたでしょうか?」
「あれ、淹れたのあなた?」
「はい」
女性は笑いもせず、不機嫌に私をじろっと見た。
「不味かった」
「え……?」
「不味かったって言ったの。いつも淹れてくれる人はいないの?」
歯に衣着せぬ物言いに思わず絶句してしまい、言葉が出てこない。
「たまたま渋谷に来る用があったから来てみたんだけど、今日はハズレね」
「……すみません」
今までお客さんから“不味い”と直接言われたことはなかった。それだけに頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
マキアートに手をつけなかったのは三十代くらいのOL風の女性だった。コートを羽織って席を立ち、憮然とした表情で伝票を手にしながらレジへ歩いていこうとしていた。
「大丈夫?」
「うん、平気。行ってくる」
怜奈が心配そうに私を見る。その女性は私もたまに見かける。石堂さんのコーヒーをいつも注文して長居はしない人だ。
「お会計お願いします」
肩にかかった長い髪を軽く振り払い、その女性が財布をバッグから出す。私は、ゴクッと息を呑んで言った。
「あの、すみません、ご注文いただいたマキアートになにか不具合がありましたでしょうか?」
「あれ、淹れたのあなた?」
「はい」
女性は笑いもせず、不機嫌に私をじろっと見た。
「不味かった」
「え……?」
「不味かったって言ったの。いつも淹れてくれる人はいないの?」
歯に衣着せぬ物言いに思わず絶句してしまい、言葉が出てこない。
「たまたま渋谷に来る用があったから来てみたんだけど、今日はハズレね」
「……すみません」
今までお客さんから“不味い”と直接言われたことはなかった。それだけに頭をガツンと殴られたような衝撃だった。



