「今は楽かもしれないけど、夜になったらまた熱が出るかもしれないから無理すんな」

「はい」

ふふ、石堂さんって結構世話好き――?

そんなふうに思うと、思わず顔がほころんでしまう。

「お前、なにひとりで笑ってんだよ? おっと、もうこんな時間か」

幸せな時間はあっという間だった。目が覚めてからすでに一時間経とうとしていた。

「これから直接店に行くんですか?」

「いや、一回家に帰ってからだな、車で来たから道が混むと厄介だ」

石堂さんはさっと上着を羽織ると、なにか言いたげに私を見下ろした。

「完全に治るまで店には来るなよ、あとこれ」

小さな紙切れを受け取ると、そこには石堂さんの電話番号が書かれていた。

石堂さんの連絡先――! どうしよう、嬉しすぎる――!

それは紙切れだったけれど、私にとっては大事な宝物のように思えた。

「なにかあったら電話して来い、じゃあな」

「あ、あの!」

「なんだ?」

「……何から何まで、ありがとうございました」

そう言うと、石堂さんはほんの少し笑って、何も言わずに部屋を出て行った。

本当は、昨夜私が言ったこと、嘘とか冗談じゃないって、そう言いたかったのに――。

何も言葉が思いつかない自分が情けない。

石堂さんに好きと告白したことははっきり覚えているし、後悔もしていない。

ほんと、タイミング悪かった……よね――。

熱に浮かされて本心じゃないなんて思って欲しくない。たとえ石堂さんが私を見てくれなくても、好きになるのは私の自由。好きと思うことだけが唯一の喜びで、そして心の支えだった。