「わたしはピザを食べて待ってますので、心ゆくまで鉄砲を撃ってください」

「……終わったらするの?」

「しませんってば」

 とは言え、野島さんはプレイに集中できていないようで、たまにちらちらと背後のわたしを見ては、肩を竦める。仕事中の堂々とした様子からは想像もできない姿だ。

「野島さん」

「なっ、なに!?」

「隣で見てて良いですか?」

「い、いいよ、別に……」

 ちゃんと許可を取ってから、野島さんの隣まで行って、ディスプレイを覗き込む。

 ふむ。銃撃戦だ。各プレイヤーがフィールドに散って、各々銃や防具を揃えて、他のプレイヤーと戦闘を繰り広げている。
 パソコンにはヘッドセットが繋がれていて、さっきまでパーティーを組む相手と話しながらプレイをしていたらしいけれど、わたしが来たせいで今は意志の疎通ができていない状態だった。
 パーティーを組んでいる相手が何かアイテムを欲して頻りにアピールしているが、野島さんにはそれが上手く伝わっていない。

 わたしはゲームに詳しくないけれど、銃撃戦をしたりアイテムを集めたり車で移動したり。なるほど楽しそうだ。みんながハマる理由は何となく分かった。

「……葵ちゃんさあ、」

「はい」

「何度も言うけど、来るとこ間違ってるよ。僕嫌だよ? きみの恋人に怒られるの」

「島さん」

「野島さんね」

「わたし、恋人いませんけど」

「ええっ!?」

 わたしの発言に、野島さんはびくりと肩を震わせ、ゲーム内で一発誤射をしつつ、椅子ごと後退る。

「じゃ、じゃあこの男は?」

 そして野島さんが指差したのは、パソコンのディスプレイ。そこには銃を二丁背負い、すっぽりと顔を覆うごついヘルメットを被り、腰にフライパンを携えた、筋骨隆々の男がいる。
 戦闘の真っ最中、しかもけっこうな終盤に差し掛かっている今、意志の疎通さえできない野島さんが手を止めてしまっては、相手はさぞかし苦労をしているだろう。

「元先輩で、今は仲良くしてもらってる飲み友だちですが」

「しょっちゅう部屋行くのに!? 晩飯作ってるのに!? 葵ちゃんの話すると怒り出すのに!?」

「はあ、でも付き合ってはいません」

「じゃあなんでしょっちゅう部屋行くの!? 僕知ってるよ、葵ちゃんが飯作るようになってから、あいつ急激に太ったでしょ! きみはそれでいいの!? 太らせたいの!? 太らせて食べるの!?」

 物凄い剣幕で捲くし立てる野島さんに若干引きつつ、付き合っていない旨を伝える。

「信じられない……しょっちゅう部屋に行って一緒に飯食って、休日はデートして、遅くなったらどっちかの部屋に泊まったりしてるのに、付き合ってない……? 今どきの若い子こわ……」

「野島さんとわたし、五歳しか変わらないじゃないですか」

「じゃあ毎晩同じ部屋で過ごして、一切何もないってこと!?」