「僕は何度も何度も、アイさんを食事に誘いましたよ」
あっけらかんとして、フランシスさんが言う。ただしわたしにその記憶はない。
「誘いました、っけ……?」
「毎週末誘っていましたよ。アイさんは毎回、みなさんを誘っていましたが……」
ああ、ああ、ああ……。あの誘いは、わたしに向けたものだったのか……。てっきり職場のみんなとの食事会だと思って、毎回大人数を誘ってしまっていたけれど……。
そう言われれば、何度も何度も誘われていた。アプローチされていた。それをアプローチと思わずに何度も無下にしてしまっていたのはわたしだ。同僚たちを大勢誘っても、フランシスさんはいつも穏やかな笑顔で頷いていたから、全く気が付かなかった。……より一層罪悪感が募る。
「あの、フランシスさん……すみませんでした」
「いいんです。ふたりで行きたいとはっきり言わなかったのは僕ですし、それを伝えなくてもこれだけお誘いしていれば気持ちは伝わっているのではないかと、思い込んでいたのも僕ですから」
「それはそうかもしれませんが……」
「部長から、日本人は察する能力に長けていると聞きましたので、アイさんも察していてくれるのかと」
そう言ってフランシスさんは、端正な顔と淀みのない美しい瞳をこちらに向けるから、大きくなりすぎた罪悪感で、ただでさえ平たい顔がさらにぺしゃんこになってしまいそうだ。
それでもフランシスさんはいつもと変わらない様子で「だからアイさん、改めて言わせてください」と切り出す。
「きみは僕の運命のひとです。愛しています。仕事中も、食事のときも、ずっときみを見つめていました。これからもずっと、きみのそばで見つめていたいです」
今夜ずっと固執していたはずの、求めていたはずの言葉は、思っていたよりずっとインパクトがあった。運命のひとだと、言い切られた。こんなことを言われたのは初めてだ。
瞬間、胸が高鳴った。
憧れ、尊敬し、恋い焦がれていた上司が、ごく普通の一般市民であるわたしを愛していると言う。運命のひとだと言う。そばで見つめていたいと言う。こんなに嬉しくて、奇跡的で、夢見心地なことは他にない。