隣を見れば悩んでる那くんがいて。
そんな那くんを見てもなお、行ってらっしゃいなんて言葉は言えない気がした。
那くんの気持ちを尊重したいって。
那くんの好きなようにすればいいって。そう思ってることに変わりはないんだけどな……。
黙り込む私と那くんに那くんママが声をかけた。
「自分たちの納得がいくまで悩みなさい。あたしならいつでも待ってあげるから」
「けど、父さんは……」
「萩には母さんが言っとくわよ。あんたは幸との未来について考えなさい」
「っ、……分かった」
那くんの言葉に綺麗な笑みを見せ2階に上がって行った那くんママ。
リビングに残った私たち2人は特に何をするでもなく。
だけど、なんとなく、那くんの考えてることは分かるよ。
きっと行くって言うんだろうな。
優しくて、家族が大好きな那くんだから。朱ちゃんの事だってずっと可愛がってるんだもん。きっと、那くんは行くに決まってる。
那くんが自分の口からちゃんと言ってくれた時には、ちゃんと心からの笑顔でお見送りしたい。
だって、私もそれがいいって思ってるもん。
それを口にするのは正直ツラくて、まだ難しそうだけど……。
「…なぁ幸」
「……うん?」
「俺――…」
那くんの言葉に目を見開いた。
だって、そんな……。
驚く私を見て、那くんは楽しそうに笑ってる。
……そんなに笑うことないのにな…。
そう思いながらも那くんの言葉が嬉しくて嬉しくて仕方ない。大丈夫。絶対大丈夫だって、そう思えてならない。


