奈穂子ちゃんが壁から身体を起こし、一歩私に近付く。



「もしかして、ユウトに悪いなって思ってる?」

「……」

私は素直に小さく頷いた。



「だったら気にしなくていいよ。」

「?」

「ユウトはあなたのこと本気で好きだったんだと思うから。

だって私1年からユウトを知ってるけど、あんなユウト、見たことないもん。

彼もあなたが辛かった時に役に立ててたなら本望だと思う。

それにね…」



そう言って奈穂子ちゃんが小さく微笑む。



「あなたにとってユウトが救いになったように、今度は私が傷心のユウトを救うから。」

「え…」

「付き合ってるの。

1週間過ぎたけど「別れよう」って言われてないんだ。」

「あ…」



そうだ。

清瀬くんは告白してくるどの女の子とも『1週間お試し』なんだった。



「だからね!

心配しないで。ユウトのことは私がちゃんと幸せにするから!」



奈穂子ちゃんは満面の笑みで言う。

それはそれは最高に強くて美しい、幸福に満ち満ちた女の子の笑みだった。



「うん。」

「あなたが気にしてるんじゃないかって、それだけ気になったから。

じゃ私行くね。ユウトが待ってるから。」



奈穂子ちゃんが廊下を駆け出していく。

私はその背中を見送り、思う。



(あぁ…良かった。)



あんなに優しい清瀬くんが、大切な幼馴染みが幸せで。



私はスクバに付いたくまちゃんにそっと触れ、ボールチェーンをぱちんと外す。

くまちゃんは今夜からクローゼットの小学校の卒業アルバムと共に眠る。

きっとそれがいい。



(くまちゃんバイバイ。

それと…



清瀬くん、おめでとう!)


     *  *  *