思い出作りと体力作りという無茶な理由で迅は私を連れ出した。夏山登山だなんて、絶対嫌だと思ったものの、そこに思い出作りが加わったら断りづらい。
仕方なく迅に伴われるまま、駅前からバスに乗った。

そのまま乗っていれば1時間ちょっとで目的地の神社に到着する。しかし、それじゃ登山にならないので登山道入り口のバス停で途中下車する。ここから登るのが表参道の登山コースになるらしい。

鳥居をくぐって赤い橋を渡る。最初は舗装道路で歩きやすい道が、いつしか立派な山道に変わっている。

「頑張れ頑張れ。せっかく買った登山靴が泣くぞ」

迅の主張で登山にあたり靴だけはきちんとしたものを買った。雨具にもなるウィンドブレーカーも。本格的な登山コースではなくても、山を舐めてはいけないんだって。
私は憎まれ口にもならない返事をする。

「そうね、迅はスニーカーだけどね」
「これ、デフォルトだから取れないもん」

迅はいつものTシャツとジーンズとスニーカーだ。トシさんの家に行くときは3枚買ったTシャツを着まわして上から着ている。毎日同じ服にならないようにという配慮だ。
スニーカーは不思議なもので、日中は迅と同じく具現化している。玄関に脱いであっても存在感があり、逆に夜には見えなくなってしまう。
つづら折りの急勾配。足を一歩進めるのがつらく、息が上がった。もう登りたくないと途中で足を止めてしまった。口には出さないけれど、バテているのは迅にバレていると思う。
ふいに迅が道の端を指差した。

「見てみ、地面に穴開いてるだろ」
「……蝉?」

荒い息を吐きながら問い返す。

「なんだよ、知ってたか。そうです、蝉の幼虫がここから出てきて木に登って羽化します」

私はぽっかり開いた穴を見つめる。小指の先より小さな穴だ。蝉の抜け殻は見たことあるけれど、あの中にぎっしり蝉が詰まっているのを想像するのは少し気持ち悪い。
そして、そんな生命力の塊みたいなものが地中から這い出して来るのは、何か怖い。