「隠してって……どこへ?」

迅の寮の部屋は引き払ってしまったって聞いたけど、ATMより近いところに隠しておいたってことでしょう?

「独身寮の玄関の植木鉢の下!」
「そんなところに!?」
「すっげぇ重たいミカンの木の鉢だから、寮母のおばちゃん、どかして掃除しないんだよ。そういうのが三カ所あってさ。全部でこの金額」

迅は古巣の独身寮に忍び込むため朝から出掛けていたのだ。いよいよ得意顔で私に封筒を押し付けてくる。

「そんなわけで使ってよ。俺、もう金かかんない身だし、マナカの生活の足しにして」
「それは……助かるけど」
「あ、Tシャツくらいは何枚か買ってもらおうかな。ずっと同じこの白Tだと、近所の人とか胡散臭く思うから」

同じ服を着続けているのが胡散臭いと感じるあたり、警察官の思考だなと思う。でも、夜はいざ知らず、昼間は身体の質量がある。Tシャツくらい着替えられそうだ。上から羽織ってもいいかもしれない。

「買うところあるかな」
「マナカ、ホント都会っこだな。ひいばあちゃんちあたりは確かに何にもないけど、国道沿いはでっかいスーパーや薬局ができてるぞ、あのへん」
「そこまで歩いて行くの?」
「30分くらいだし歩けるだろ。買い出しはだいたいそのあたりで済ませるつもりだから、頑張れよ」

私は内心げえと舌を出した。体力がとにかくないので、この炎天下歩き回らされるのは嫌だなと思う。迅は職業柄鍛えている。幽霊の今はその尺度で図っていいのかわからないけど、それでも私よりは圧倒的に動けそうだ。今朝もアクティブにへそくり探しに出かけてきたんだし。

「歩けなくなったらおぶってやるから」

私は高速で首を左右に振る。それはもっといやだ。迅なら素でやりかねない。

「お気遣いなく!」
「お姫様抱っこがいいか?」
「絶対嫌!!」

私はそっぽを向いて車窓を眺めることにした。