「いないね」
『そうですか。なら、確かめに行かせていただきますね』
そこまで言って電話が切れた。
琥太は険しい表情で私を見た。
「おい。ここから移動するぞ」
少し慌てた様子でソファーから立つ。
私にはもうここしか居場所がない。
琥太の言うことに素直に従い、ソファーから立つ。
そこでもう一度携帯が鳴った。
今度は画面を見るなりすぐに出た。
スピーカーにはしないで耳に当てた。
「おい、そっちで何があった」
その一言だけで相手が朱雀たちなのはわかった。
「………わかった。すぐに移動する」
琥太は電話を切って私の手首を握って歩く。
「もう遅い」
部屋の扉に寄りかかっている人がいた。
その人の顔は暗くてよく見えない。
この声……聞き覚えがある。
でも、誰?
なんで聞いたことがあるの?
寄りかかっていた人が部屋の中に入ってくる。
「…………っ!!」
その人の顔を見た瞬間。
ガラスが割れて中に入っていた水が流れ出すように私の中に忘れていた記憶が蘇ってきた。
な、んで……。
