珱次はずっと黙ったまま私の胸元を見る。
そこには私の手に握られている携帯があった。
「ごめんね」
何を謝っているんだろう。
ここに連れてきたこと?眠らせたこと?
それとも、携帯を取ったこと?
「つばき、やっと逢えたね。ほんとは会いに行けたんだ。
でも、あの時の俺がつばきに会ったら……俺はお前に嫌なことをしてた。
だから、会いたくても会いに行けなかった。ごめん」
なに?なんの話をしてるの?
会いに行けなかった?
まるで私のことを探してたみたいな言い方。
珱次はゆっくり私に近づく。
少し前の私だったら近づいた分、離れただろう。
だけど珱次との距離は縮まるばかり。
「お願い。俺にだけでいい」
そう言って私を抱きしめる。
なんで抱きしめてるんだろう。
そう思ったのと同時に珱次は私を離す。
「鍵、解いて?」
私の胸元に人差し指を当てて悲しそうに言った。
「…………」
例えこの人が私の知り合いであっても、悲しい顔をしても、私には響かない。
「やっと会えたのに……鍵をかけてたらお兄ちゃんは、どうしたらいいの?」
