あの惨劇を目撃していない生徒は笑いながら、或いは学園祭延期に納得いかずに愚痴を吐き捨てる生徒もいた。だが、あれを見てしまった生徒は共通して、一言も喋れずにトボトボ帰っていた。
当然俺もその一人だった。

俺は昨日起きた出来事を思い出し、身震いしながらタンスに手を掛け、私服へ着替えた。
財布とスマホをポケットへ突っ込むと、さっさと階段を駆け下りてリビングへと足を入れた。

リビングには誰もおらず、机の上にはラップで包まれたおにぎりに、その上にある紙には母さんから"お腹すいたら食べて"とだけ書いてあった。

父さんは仕事で母さんはパート、真衣は通常通り学校で、家は俺一人しかいない状態。帰ってくると、少なからず電気は付いており、音がどこかしら聞こえてくるのが当たり前だった家の中は、何も無い"無"でしかなかった。

俺はおにぎりを手には取らず、出掛ける為に洗面所へ行き、ボサボサの髪を直しに行った。
俺が今から向かう場所は千恵の家だ。千恵のあの言葉がどうしても頭から離れないし、何より里沙のあの姿、頭がひとりでに剥がれていくあの様を見てしまうと、何でそんな事が出来るのかという好奇心が働いたからだった。

本来なら自宅待機ということで家から出ては行けないのだが、そんなルールより好奇心の方が強かった。