恐怖の渦の中



敦は顔を真っ赤に染め上げながら、拳を強く握りしめた。だが、青山からの謝罪の言葉はない。寧ろ冷静だった。


「なんだ?殴るのか?やってみろよ。」


青山の言葉をスタートに、敦は足を一歩踏み出した。その足は重く、力強い一歩だった。

俺はこれから起こる事を察して敦の肩を掴んだ。


「敦、やめろ。」


敦はキッと俺を睨んだ。敦は怒りで満ち溢れていた。
だが、少し理性があるのか、小声で対応した。


「何でだよ、こいつには一発お見舞いしないと気がすまねぇ!」


「感情的になるな。そんな事したら青山が手を下さなくてもお前は罰される。それに里沙がお前の殴った姿見て、"かっこいい"となるとは到底思えない。今日は学園祭だ。学園祭で問題起こして、生徒指導部が停止を言い渡されたら、里沙に嫌われるだけじゃ済まないんだぞ?」


怒りで火照った脳で俺の言葉を聞き取り、段々顔から力が無くなっていく敦を見てホッと安堵の息を漏らした。
すると青山はまた顔が緩やかになり、折角収まった敦の感情を揺さぶるような言葉を吐いた。


「良かったな本澤。西条みたいなマトモな奴が近くにいて。もしお前一人だったら、スグにこの学校から消えるハメになっていたのにな。」