恐怖の渦の中


吉永が頭を下げている中、チラッと里沙の方を見ると申し訳なさそうに、少しだけ頭を下げたのが見えた。


「....すまないが、そこをどいて貰えるかな?邪魔でしょうがないんだが。」


いきなり後ろから冷たい口調で言われ、振り返ってみると、口調だけではなく、目付きもどこか冷めているような青山が立っていた。薄い眼鏡を人差し指でクイッと上げている様を見ると、まるで漫画の中の登場人物のようにも見えた。
青山の言葉か、里沙が目の前にいるのが原因なのかは分からないが、敦は青山に向かってキツい目線を浴びさせた。


「あ?別にここじゃなくて後ろの方のドアから入ればいいだろ?取り込んでいるのが目に入ってないのか?」


「取り込むなら中でやってくれないか?それに後ろの方を見てみろよ。」


青山に言われて、俺と敦とさっきまで下げていた頭を上げた吉永が一斉に後ろのドアに目をやった。
そこには今日学園祭の発表で使う小道具がズラっと並べてあった。


「昨日の放課後、笹井が「そこにまとめたから明日の朝は前の方から教室へ入れ」って言ってた筈だが、聞いてなかったのか?」


「だ、だとしてもよ。今みてぇな口調はねぇんじゃねえのか?馬鹿にするような口調で言われるとこっちもムカつくんだよ。」