だが私は確信している。アレは精神的ショックで生じる幻覚なんかじゃない。あれは絶対別の種類だ。私の感覚がそう言っていた。


アレは所々泥がついているボロボロの白い着物を着ており、髪の毛を数週間何も手入れしていないみたいにボサボサ。口元は何とか見えるが鼻から上は髪が邪魔でよく見えない。


そしてアレに恐怖するのは付着している血が原因だ。着物の大体半分程は血で侵食されており、髪の毛も本来は黒なのだろうが大半は赤色で染まっていた。その髪の毛は血が固まったのだろう、所々束になっておりウニの針のような感じになっている。


そしてこれだけでは終わらない。最大の恐怖はアレの表情であった。良くホラー映画とかだと幽霊は喜怒哀楽がハッキリしているような感じがする。笑っていると何か企んでるようにも思え、怒っていると恨まれている。悲しんでいると何かして欲しい、楽しんでいると狂気を感じられる気がする。


だがアレは違う。あんなに血だらけでボロボロの服を着ているし、最初見た時よりだいぶ距離が近くなっているのにも関わらず、アレは無表情だった。それが何を意味するのか当然分からない。ただ、アレが何を思って私の前に現れたのか、そして近付いてくるのかが分からない。だからこそ妙に不気味でしょうがなかった。


だがアレは何もしてこない。近付いてくるだけであって何も威嚇もしないし、話しかけてくる気配もない。