怒りの若者に対して中年の男性は、年上としての余裕はそこには無く、ペコペコと平社員のように頭を下げていた。
そんな様子をジッと見ていると私は顔を上げていることに気付いて、「あっ」と力無い声をポロっと漏らした。
するとその車のすぐ横に立っているものが目に入ってしまった。
これまで絶対に見ないようにしていたものが、さっきの騒動で自然に見えてしまった。
私は冷や汗がぶわっと溢れだし、まるで就職試験に落ちたような絶望感を感じた。
そいつから目を逸らしたいがあまりの衝撃に目線は固定されており、ただただ恐怖の対象であるアレを見続けた。足もガクガクと踊り始めて今にでも腰が抜けそうだった。
そいつを見るようになってから二日目だ。
二日前、私は散歩のつもりで山近くの道路を歩いていると、一人の女性が発狂しながら山を降りて道路を飛び出た。
何事かと思った次の瞬間、その女性の顔はポッカリと空いて辺りを赤で染め上げながらその場で力無く倒れた。
ポッカリ空いたというより、何かに後ろから突かれたような感じがしたがその原因は分からない。
そのお陰で私は警察に事情聴取されたし、アレもその頃から見えるようになった。アレの存在は誰も見えなく、警察に相談しても精神的ショックが大きいからという理由で片付けられた。



