恐怖の渦の中


「だからよ、もう泣かないでくれ。矢野さんが泣くと、お、俺だって泣きそうになっちまう。」


「うん。本当にごめんね....私...今までずっと怖かった。...."アレ"が見えてから、一日が怖かった....でも、見えなくなって、本当に....」


里沙は消えそうな声で言いながら、顔を抑えてしゃがみ込んだ。
そんな中、少し慣れてきたのか敦は背中を摩りながら「だ、大丈夫か?」と優しく声をかけていたが、俺は里沙の言葉が引っかかってしょうがなかった。

里沙が休んでいたのは、人が死ぬ現場を見たショックではなく、また別に理由があるのかもしれない。"アレが見える"が何を示すか分からないが、恐らく幻覚的なことの可能性が高いことが分かる。

俺の推測では里沙は幻覚に苦しめられて、学校に行けなかったが、最近になり幻覚が消えたから学校へ来たということだ。
それなら里沙の目の下のクマや、挙動不審な行動も一理ある。

なら見えていない今では全然大丈夫だろうが、その幻覚の原点によっては今行動しないともっと酷くなるかもしれないのだ。

例えば死の現場を見た時のトラウマが呼び起こしたものだったら、ドラマとか見る度に思い出してしまうかもしれない。
もしかしたら薬物の可能性もある。それなら人に相談出来なく、一人孤独に戦わないといけない。