鬣犬はとても近い距離にいた。一歩踏み寄られたら息が聞こえるほどの場所にいた。

だが、俺はあえて嘘を言うつもりだった。理由はどうあれ、どう合理的に物事をとったにしろ、彼は俺達にとっては殺人鬼。鬣犬....いや、それ以上の価値を持つ仇だ。
俺がここで嘘を吐けば時間を稼げる。ここで俺が呪いで死ねば彼に一泡吹かせられる。

そう思い口を開いた瞬間、和一先生は俺の心を読んでいたかのような言葉を発した。


「栄治君、嘘はつくなよ。ここで俺を仇討ちと言って自分が呪いで死ねば、誰が呪いを解くんだ?
俺は呪いを解くために動くだけ。そしてその呪いは人が恐怖という感情がある限り不滅、絶対無敵、止められない連鎖になる。

君の親族も呪いで殺されたいのかい?俺は、遠回しでいえば君の知人や家族、世界の人々を救おうとしてるんだぞ?」


和一先生の言葉に俺は涙が流れた。悔しい、憎い、辛い、そんな感情がごちゃまぜになった感情になり、完全に心が折れた。俺は結局手のひらで転がる玩具、自分一人では何も出来ないのだ。


「クッ...す、すぐ目の前....だ...ウウ...」


「ありがとう...君達には感謝もしてるし、心の底から申し訳ないと思っている。こんなことに巻き込んでしまって...本当にすまなかった。後は任せてくれ。必ず鬣犬を殺し、呪いを解いてみせる。」