恐怖の渦の中


ようやく来たかっとため息を吐き、立ち上がりさっさと帰ろうとすると、俺は肩を思いっ切り掴まれた。


「?何だよ。」


「栄治....今日俺....里沙ちゃんと話してみる....」


「あっそ。じゃあ頑張ってな。」



「は?ちょちょちょ!!待てって!何だよその他人事みたいな言い草は!俺がようやく話し掛ける勇気を持ったんだぞ!?」


必死に縋るように腕を掴んでくる敦を見て、ついついため息を吐いた。


「あのな、話し掛けるだけだろ?デートの誘いとかだったら分かるけど、何でわざわざ話し掛けるだけで報告してくるんだよ?」


「お前俺がどんだけ内気か知ってるだろ!?今俺は結構勇気を振り絞ってんだよ!」


「それは好きな女子限定だろ?それにさっきの口調、まるで告白する風で言ってくるなよ。こっちまで恥ずかしくなる。」


「そ、そんなこと言うなよ...俺は俺なりに頑張ろうと....」


「あぁ!分かったって!頑張れよ敦。何事もスタートが肝心って言うもんな。スタートの出来によっては付き合い変わってくるもんな。」


「おぉ!そうだよ!俺マジで頑張るわ!!」


本当に単純明快な奴だよ。あの返答で納得するその馬鹿さ加減は、昔と全然変わっていなかった。