恐怖の渦の中


下から出てきたのは白い手、しかも理沙、千恵、月璃に長富、野宮さんと坂目さん、そして吉永。俺の目の前からいなくなってしまった人達が、黒目をいっぱいにし、真っ白な顔で俺の顔に手を伸ばしてきた。


「ひっ!な、なんだよ!なんだよこれええええええええ!!!」


俺は絶叫した。心底恐怖し、足をガクガクと踊らせてそのまま膝がカクっと曲がった。
膝を着いた瞬間、亡霊も床も、あの薄暗さも全て消えてコンクリートの地面が俺の視界に映った。

俺はさっきのが幻と理解し、安堵の息を漏らした。そして、すぐに千恵とのやり取りを思い出す。

千恵はあんなのを何度も何度も繰り返し見続け、精神的に追い詰められていた。その状態で俺の姿が鬣犬に見えたら、それは襲いもする。

矢沢さんがあんなにもトラウマなのがやっと理解出来た。
俺はまた幻覚を見る前に、早く公園に着こうと立ち上がると目の前には鬣犬がいた。

病院の時までは、まだ冷静さを持てた。だが、さっきの事もあり、俺の精神は既にズタボロ。
鬣犬が目の前に現れた時、初めて会った以上の恐怖を味わった。

また、足が止まってしまう。俺は視界を狭め、公園まで走った。
鬣犬が見えないように地面を向き、必死に走った。