恐怖の渦の中



「ごめんなさい...」


「いいのよ!取り敢えず無事で良かったわ。....もうこんな思いにさせないでちょうだいね?
栄治が先に逝くなんて私耐えられない....」


母さんはそんなことを言いながら、目に涙を浮かべていた。その涙を見て俺の心はとてもグラついた。もう心配かけたくないと、俺の心が叫んでいた。


「そ、そんな縁起でも無いこと言わないでよ。気味が悪くなっちゃうよ。」


「...そうね....だけど、本当に良かった...」


「...母さん....ちょっと今からトイレ行ってくるから...」



「あぁそう。分かったわ。病室で待ってるわね。」


「腹痛だから結構長丁場になるかもしれないから、寝てていいよ。」


「お馬鹿、病院で寝れる訳ないでしょ?子供じゃないんだから。」


母さんは笑い話を振ってきて、俺は合わせて笑顔を見せる。これ程笑顔というものは難しいものかと思い知らされた。口角が上手く上がらない、目が笑っていない。そんなのは鏡を見なくても分かっていた。


「確かにね....それじゃあ。」


俺はそのまま母さんに背中を向けて玄関へと足を運ぶ。今まで色んなことを頼まれ、それを全てやりこなす、或いはやろうとしていた。
言わば従順だった。だが、今初めて母親との約束を破ろうとしていた。しかも待っているのが最悪な状況かもしれない。