俺達は走った。吉永が作ってくれた時間を無駄にしないため、生き残るために薄暗い廊下を必死に走った。

心が締め付けられる恐怖のせいか、単に疲れているのか、はたまた吉永の出来事なのかは分からないが、とても息苦しくてたまらなかった。
鬣犬と初めて遭遇した場所からバスルームまでの道を、同じ道を走っている筈なのに感覚的に何キロも走っているような気分を味わっていた。

いつの間にか前にいる加奈と青山との距離がさっきより縮まっていた。いや、二人は立ち止まっていたのだ。

俺はその先の方へ視線をやると、そこには無残な姿で倒れている野宮さんがいた。本来顔がある部分は赤黒く抉られており、決して直視出来るものではなかった。

青山は手を拳に変えており、ブルブルと震えていた。野宮さんは今回の事で俺達に良く突っかかってきていた。その行動は良いものではない、青山自身嫌気がさしていたに違いない。
だが、それでも死んで欲しい訳じゃない。
その何とも言えない悔しさが襲っていた。

青山は倒れている野宮さんを踏まないように、端の方から通り過ぎていった。続いて加奈、俺も野宮さんの死体を残して先へ向かおうとした。
だが、俺はそこで黒く光る物が目に入った。俺はそれを傷が付きやすい出来上がったばかりの製品のように、慎重に持ちポケットにしまった。